人間の中には、ちゃんとはじめから決められた故郷以外の場所に生れてくるものがあると、そんなふうに僕は考えている。なにかの拍子に、まるで別の環境の中へ送り出されることになったのだが、彼らはたえず、まだ知らぬ故郷に対してノスタルジアを感じている。生れた土地ではかえって旅人であり、幼い日から見慣れた青葉の小道も、かつては嬉々として戯れた雑踏の町並みも、彼らにとっては旅の宿りにすぎないのだ

Maugham,W,S. “The Moon and Sixpence”
S・モーム『月と6ペンス』