レビュー

子ども支援、貧困対策の救世主としての「居場所」を考える

近年、教育や福祉の界隈で「居場所づくり」というキーワードを本当によくききます。たとえば、
「子どもの貧困対策」に50億円 放課後の居場所100カ所、日本財団とベネッセなど」などの大きな取り組みも開始されています。

 

居場所は感覚的なものであり、一体どういうもので、どうやったら居場所になるの?という答えを見出すことはとてもむずかしいことだと思います。一方でファジーな言葉だからこそ、多くの人に響いて、ここまで「居場所づくり」が一般化しているのだとも思います。

 

▶実践を通して考えた「居場所」

実は現在、修士論文を書く傍ら、子ども・若者の支援をする人材の育成を、NPO法人PIECESで「コミュニティユースワーカーの育成」として行っています。
その育成では、虐待や家庭内での問題、学校での問題を抱える子たちに寄り添うために必要なこととして、1)居場所の形成、2)関心の引き出し、3)社会との接続などをあげて、実践をしながらチームで学んでいっています(活動報告ブログ)。

この1)〜3)には、プロセスがあります。「やりたい」というような関心の芽がでる前段階には、長い時間をかけたケアや寄り添いが必要で、そこで信頼関係を築き、「ここにいていいんだ」という安心としての「居場所」を形成し、「人と人との関係性」をつくりあげることが重要となってきます。それがあってはじめて、2)のフェーズに映ることができます。つまり、「居場所」は子ども支援には欠かせません。

普通の子が家庭や学校に「居場所」を持ち発達していくのに比べて、虐待やいじめなど、家庭や学校に「居場所」がなく、人から愛情や関心を払ってもらってこなかった場合には、それ以外の場所に「居場所」をつくっていくことが重要になってきます。そしてPIECESでは、そんな居場所の要となるのは「人」だと考え、人を育成しています。(詳細についてはPIECESのブログでも追って書いていきます)

 

▶「居場所」の研究の整理

こんな活動をしていることもあって、「居場所」について考えることが多いのですが、実は約2年前にも、「居場所」について研究の観点からも考えていました。その際に、「居場所」というキーワードの入った心理学の研究をレビューをしていたので、それについてシェアをしようと思い久々のブログを書くことにしました。

以下は、その2年前に整理したものです。
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0.「居場所」の成り立ち
▶背景:不登校問題からの「居場所」
・1980〜 教育学・社会学から、不登校の問題などが指摘される
・1985  フリースクール「東京シューレ」が開設される
⇒居場所への関心が高まる
・1992  文部科学省が、居場所づくりを提唱(不適応対策調査研究協力者会議)
・1990〜 心理学分野での「居場所」研究がはじまる(不登校との関連、小中学生対象)
・2000〜 対象が青年期、幼児期、成人期などへ拡大

 

1.「居場所」とはなにか?
「居場所」は、学術用語ではない。

▶先行研究における定義
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▶居場所の分類と役割〜発達段階に応じて〜
◯藤竹(2000)は、居場所を、「社会的居場所」「人間的居場所」「匿名的居場所」に分類。
◯杉本(2009)は、先行研究の整理と、自らの実証的研究によって、
・居場所を「自分ひとりの居場所」「友達のいる居場所」「家族のいる居場所」に分類
・それぞれの分類に対する優先順位が、発達段階に応じて変わる
・たとえば、中学生に比べ、大学生は「サークル」「バイト先」など、住環境と学校の他の活動を居場所とする傾向が強くなる。また、それ以外の居場所が増える。
などを明らかにしている。

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▶どういう機能、条件があれば「居場所」か?
居場所の心理的構造(居場所尺度から)
居場所の条件
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▶まとめ
これらを統合すると、居場所とは、
当事者の主観的な心理状態が、自分にとって心地よい状態であり、さらにその心理状態に影響を及ぼす、対人関係、物理的環境も含めたものと言える。
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2.「居場所」と関連する症状・心理的側面について〜「居場所」は必要なのか? 〜
◯精神的健康、学校適応、不登校傾向と関連している
・杉本(2009)の実証的な調査によれば、中学生において「友だちのいる居場所」がある生徒は、ない生徒に比べ、イライラ、無気力が低い良好な精神的健康度であり、学校適応が高く、不登校傾向が低い。

・また、杉本(2009)は、中学生の頃に「友だちといる居場所」があったことは、大学生の現在の良好な精神的健康度とも関連することを、回想法を用いて示している。

◯自我同一性拡散と関連している
・堤(2002)の実証的研究によれば、同一性混乱の度合いが高いものほど、対他的疎外感としての自分の居場所がないと感じる傾向・自己疎外感としての居場所がない感覚が大きい。(この研究では、自我同一性混乱尺度(砂田1979)(エリクソンのidentity diffusion statusをもとに作成)が用いられている)

◯心理社会的不適応との関連
佐藤ら(2013)の質問紙調査によれば、中学生の頃に家族といる居場所がない人は、大学生の心理社会的適応に結びつくことが示唆された。

◯居場所がないということ
住田(2003)は、「居場所がない」「ひとりでいる居場所のみを持つ」子どもの特徴として、
・家庭でのコミュニケーションが少ない。
・居場所のない子の8割は、学校が楽しいと思っていない。
・教師とのコミュニケーション頻度低く、ほめられることが少なく、叱られることが「よくある」と思っている。
・自己評価が低く、学業成績も「あまり良くない」、クラブ活動も「あまり得意でない」と思っている。
・友だちとの相互理解度が低い。友だちの数も、居場所ある子に比べて少ない。
などを明らかにしている。

 

3.「居場所」と対人関係
▶青年期の友人関係について
・杉本(2009)の女子大学生に対する半構造化インタビューによれば、「中学の頃から、友達はたくさんいても、友だちのなかに「居場所」がないことを悩んでいる」という。
・塾や習い事をしている人の方が、していない人に比べて、居場所感が高い(石本2007)。
・友人関係の希薄は、青年の精神的健康や発達との関連において望ましくない影響を与える
(石本ら 2009)

▶家族との居場所(杉本2009)
・幼少期に親と不安定な愛着関係がある場合、中学生でも「家族との居場所」がない。
・家族の居場所がない子は、「遊び・非行の関連する不登校」になりやすい。
・家族の居場所の有無「抑うつ・不安」「無気力」「身体症状」に影響大。学校享受感にも影響。

▶重要な他者の移り変わり
・親から親友へと重要度が移行する(高橋・米川2008)
・則定(2008)は、青年期の心理的居場所感における親友の関係性は、特に「安心感」「本来感」などの感情が高まることを明らかにしている。
・大学時代の恋人への愛着形成は、アイデンティティ形成に影響を与える(Berman et al., 2006)

▶「居場所」があることの弊害
・若者の関係性ネットワークについて
藤原(2010)は、若者の友人ネットワークは、仕事選びや生き方に大きな影響を与え、経済的にも助け合いなどが行われる一方で、そこにとどまらせてしまい、非正規雇用の連鎖から抜け出せない、地元にとどまるなどの弊害も出ていることを指摘した。

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参考文献リスト

【転記】ヴィゴツキーについて L.S.Vygotsky

研究室のブログにも書きましたが、今年の夏合宿でVygotskyについて担当したので、まとめておきます。
以下、転記です。

L.S.Vygotsky(1896-1934)
旧ソヴィエトの心理学者。
彼は、心理学の学問の方法論から問い直し、発達心理学や教育心理学などに多大な影響を与えた学者です。

彼の心理学を、3つの観点からみていこうと思います。
① 心理的道具
② 心的機能の社会的起源
③ 発達の方向性

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① 心理的道具

ヴィゴツキーは、マルクス・エンゲルスの人間と生産を媒介する道具に関する考えを、人間の精神機能の発達に応用させました。
つまり、人間と社会の間には、道具の媒介があると考えたのです。
人間は、心理的記号の助けをかりて、外からの働きかけから脳に新しい結合をつくり出すと考えました。
高次の精神活動は、言語や、社会文化などの記号によって媒介された人間と社会の関係から生じるのです。
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また、このようなA-B間を媒介するXを含めた3者の関係を、人間活動の最小単位として彼は考えました。
この3角形は、彼の理論を理解する上で根本となるもので、以下の②〜③にも繋がります。

② 心的機能の社会的起源
人間と社会が、心理的記号によって媒介されているとして、それはいかにして精神機能を発達させていくのでしょうか。

彼は、高次精神機能は、精神間(interpsychic)から精神内(intrapsychic)へ転化するとしました。
つまり、子どもは、母親との会話や社会的な状況としての精神間機能を、内化させ、自分自身への問いかけや指示だしなどの精神内機能へ転化させることで、高次精神機能としての思考などを行うようになると考えました。

これをより理解する際のキーワードとして、「内言」というものがあります。
「内言」とは、思考を行うような(意味処理が優位であり、音声を伴わない)心のなかの発話のことを指します。
その反対に、コミュニケーションなどを行うような(伝達機能が優位であり、音声を伴う)発話を「外言」と呼びます。
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彼は、社会的な外言は、内化され内言となり、それによって思考などの高次精神機能は発達すると考えました。
子どもは、話しことばの発達から、書き言葉への発達へ移行しますし、子どもの書き言葉の水準と話言葉の水準にへだたりがあることを考えると理解できるのではないでしょうか。

③ 発達の方向性
③−1生活的概念と科学的概念
②をふまえると、発達は、心理的道具を媒介とし社会的なものを内化させながら、一方向へのびていくように考えられます。
しかし、ヴィゴツキーは、発達には二方向あると考えました。
ひとつは、生活的概念の発達の方向であり、具体性と経験の領域から発達していきます。
もう一方は、科学的概念の発達であり、こちらは自覚性と随意性の領域から発達していきます。
子どもの科学的概念の発達は、(ある一定水準まで生活的概念が発達していることが前提となりますが)生活的概念の発達が辿ったすじ道とは反対にすすむものとして、ヴィゴツキーは定義しました。

具体的な例を考えてみます。
「水」という概念を、子どもたちは、学校で習う以前の生活で、雨やお風呂、飲み物など様々な体験から経験的に学習しています。
そして、その後、液体でありH2Oである「水」を科学的な概念として、経験とは違う方向から再び学びます。
このような例を考えると、2方向の発達について理解できるのではないでしょうか。

③−2 最近接発達の領域 Zone of Proximal Development
以上までで、人は社会との関係のなかで、心理的道具を媒介としながら、社会を内化しながら発達し、さらにその発達は生活的概念と科学的概念の2方向から伸びていくものだということがわかりました。
では、そのような発達はどのような進み方をするのでしょうか。
また、それは自動的に行われるものでしょうか、それとも教育によって行われているのでしょうか。

この問いにこたえる上で重要になるのが、彼の有名な最近接発達の領域の理論です。

彼は、発達過程と教授ー学習過程の関係を考えるうえで、
ピアジェらの”発達が教授ー学習に先行する”という考えや、ジェームズらの”発達は教授ー学習と平行である”という考えを否定しています。
彼は、教授ー学習という社会的な文脈は発達過程に多大な影響を与えている一方で、子どもたちは内言や随意性などを自身で獲得していると考えました。

そこで、ある実験を行います。
ある発達水準を測定するテストで、7歳と診断された子どもが2人(AとBとします)います。
つぎに、2人に、援助ありでテストを継続していきます。
すると、Aは、援助ありだと9歳の問題まで解くことができる一方で、Bは、援助ありでも7歳半の問題までしか解くことができませんでした。
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このような援助によって可能になる知的水準の差異についての理論が、最近接発達の領域です。
最近接発達の領域とは、「自主的に解決される問題によって規定される子どもの現在の発達水準と、おとなに指導されたり自分よりも知的な仲間と共同したりして子どもが解く問題によって規定される可能的発達水準とのあいだのへだたり」のことを指します。

この最近接発達の領域は、模倣の重要性や教育はいかにあるべきかということを示唆してくれます。
実際にヴィゴツキーは、「子どもがすでに何を学んだのかではなく、むしろ何を学ぶことができるのか」について考え、指導するべきであると述べています。

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他にも、彼は、芸術について、情動についてなど多くのことについて言及しています。
彼は、最終的には、人間の「意識」の問題を扱う心理学を、社会、人格などとの関係から解き明かそうとしていたと言われています。
しかし、残念ながら彼は38歳という若さでこの世を去ってしまいました。
ヴィゴツキーの残した、発達から考える教育、学習についての理論は、私たちが学習を研究する上でたくさんの示唆を与えてくれます。
そんな彼に出会えた夏に感謝しながら、今回のブログはこの辺りで失礼いたします。

◆参考文献
ヴィゴツキー著, 柴田義松訳(1962)『思考と言語 上』明治図書出版
ヴィゴツキー著, 柴田義松監訳(2005)『文化ー歴史的精神発達の理論』学文社
ヴィゴツキー著, 土井捷三・神谷栄司訳(2003)『「発達の最近接領域」の理論』三学出版
柴田義松(2006)『ヴィゴツキー入門』寺子屋新書
神谷栄司(2005)「ヴィゴツキー理論の発展とその時期区分について(Ⅰ)」 社会福祉学部論集
神谷栄司(2006)「ヴィゴツキー理論の発展とその時期区分について(Ⅱ)」 社会福祉学部論集